教授 吉栖 正典
薬理学教室は、初代の山本巌教授が昭和二十五年二月二十六日に就任された日を教室開設日としています。山本教授は「抗結核薬チオビンの毒性試験」や「白癬菌に対する化学療法薬」などの化学療法薬の研究で業績を残されました。昭和三十五年に二代目黒河内寛教授が就任され、「喫煙と健康」をテーマに中枢神経系におけるニコチン性アセチルコリン受容体の精製やその機能の研究で業績を残されました。平成三年に三代目中嶋敏勝教授が就任され、黒河内教授の「喫煙と健康」研究を継承されました。平成十七年二月から吉栖が四代目として教室を担当し現在に至っております。現在のスタッフは、教授以下、小澤健太郎准教授、磯崎稔助教、京谷陽司助教、長山常磐秘書、そして平成十八年八月から実験補助として趙晶が研究に加わっています。
教育については、薬理学は多くの他分野とも深く関連しますので力を注いで行なっています。薬理学の講義は病態生理からみた薬理学的メカニズムに重点において、臨床に則した内容で行っております。カリキュラムの変更に伴い、学部三年生に薬理学総論と各論の一部の講義を、また学部四年生の統合講義の中で薬理学各論を講義しています。学部学生実習は、(一)ゲノムDNA遺伝子多型解析、(二)腸管収縮に対する薬物作用、(三)カフェインの薬理作用、(四)ラット循環動態に及ぼすカテコラミン、アンジオテンシンIIの作用を教育しています。また、新たに導入されたTBL教育では教室のスタッフがシナリオ作成や、チューターとして実際に教育に携わっています。そのほか、看護学科での基礎薬理学・臨床薬理学の講義も各教員が分担して行なっています。
研究では、吉栖が高血圧や動脈硬化などの心血管病における酸化ストレスの関与とMAPキナーゼを中心とした細胞内情報伝達機構の役割について分子薬理学的研究を行ってきました。食品成分中に含まれるバイオフラボノイド類などの抗酸化作用に注目し、いくつかの抗酸化物質がMAPキナーゼ情報伝達系の阻害を介した動脈硬化の進展抑制作用を持つことを見いだしました。小澤准教授は神経変性疾患における酸化ストレスの関与について研究しています。酸化ストレスにより修飾を受ける細胞内タンパク質をスクリーニングし、その修飾によりタンパク質の機能がどのように変化するかを探求しています。最近、家族性パーキンソン病の発症に関わるとされるParkinのSNO化の病態生理学的意義の一端を明らかにしました。磯崎助教はケミカルゲノミクスの手法を取り入れ、細胞の分裂・移動・生存などに重要な働きをしている PI3 キナーゼに対する阻害剤であるウオルトマンニンの新規誘導体を探索する研究を行っています。京谷助教は、培養細胞を用いて閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSA)のモデル実験系を確立し、OSAによる心血管病の発症増加につながる血管平滑筋細胞増殖のメカニズムの一端を明らかにしました。まだまだ実験結果がすぐ創薬に結びつく段階ではありませんが、各スタッフがそれぞれの研究で成果を出せるように努力しています。
今後の抱負として、酸化ストレスによる心血管系細胞障害の分子機構の研究をさらに発展させ、種々の抗酸化薬の動脈硬化抑制効果について検討するとともに、分子創薬を目指したトランスレーショナルリサーチを推進していきたいと考えています。また教育面では、医学生への薬理学教育においては臨床薬理学教育の充実が求められています。このことから、薬物相互作用、副作用の教育の他にも、用法・用量を誤ると患者さんに重大な不利益が生じる薬物について重点的に教育を行なっていきたいと考えています。大学院生教育も充実させたいと考えており、現在博士課程の大学院生2名が在籍し、実験・研究に努力しています。今後さらに多くの大学院生が入学してくれるような魅力ある教室にしていきたいと考えています。
奈良県立医科大学も、平成十九年四月に独立行政法人化され6年が経過しました。独法化以後、多くの変革が大学にもたらされたように思います。医学部学生定員の増加に伴って多様な価値観、考え方を持った学生が入学してきています。彼ら、彼女らを将来立派な医師・医学研究者に育てていくために、教室員一同、奈良県立医科大学での研究ならびに教育の発展に努力していく所存です。
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